更新日2003-10-1

                 安藤英治先生からの手紙


政経13年次・杉原哲彦氏を人生の師と仰ぐ天野律子様から、「先生は今は下関の厚生病院で療養され症状は悪化の一途をたどり、寝たきりになられた」との辛い知らせがありましたアルツハイマー症は、現在では回復が絶望的だけに、やり切れない気持に沈みます。
同年次の石川國男氏からの提案を得て、今後を静かに見守るしかない思いを、本人が敢えて公開した「安藤英治先生からの手紙」の転載に託した次第です。

  杉原哲彦様

 あなたの『告白録』とも云える『生き甲斐のある生活をするとはどういうことか』を頂いた時、僕は危うく現世を離脱しかけた急性肺浸潤の1ヶ月に及ぶ入院生活を了えて在宅の予後療養生活に入って間もない頃でした。それでも、この容易ならざる書名と目次内容を見て、遅読の僕としては珍しく早速少しづづ読み始め、4月4日読了と記録してあります。
 様々な意味でショッキングでしたし、感ずる所多大だったので、病後の疲労した頭脳では感想をまとめる意欲が固まらず、今日に到りました。折角署名入りで贈って下さったのに無反応のままに打過ぎたことを御詫びします。かくことが無かったのでは勿論なく、多すぎたからです。 
 今日も、いちいちについて感想を書き連ねることはとても出来ませんが、とにかく一言せずにはいられません。
 貴方は様々な分野で良き師、友に恵まれていることもよく分かりましたが、その多彩な自己形成史の編目の中に安藤→杉原、上原・阿部→杉原という二本の糸が大きな存在を占めていることを知り驚きました。のみならず、上原先生から受けたショックが、北京における天寧寺体験の記事によるものであるとは殊のほかの驚きでした。学問外の世界でも、フーガの技法やベートーベンの後期のクワルテットへの傾倒は全く僕自身の問題だし、スポーツをめぐる諸見解も共感を覚えます。古島君も懐かしい名前ですが、僕の頭の中では全く結びついていませんでした。---
こういうもろもろの次元の問題がこの小冊の中にギュウ詰めになっているので、いちいちについて述べ出したら一冊の本になりましょう。
 体力も落ち、天命もそろそろ尽きようかという状況に立到っているので、残された人生でどれだけのことが出来るか分かりません。それだけに、僕の人生からなにかしかが後の世代に受け継がれ、新しい生に組み込まれてゆくとすれば、うれしいことです。
 まことにユニークな人生をヒタスラ生きて来られた貴兄の奮闘に敬意を表し、いっそうの精進を祈念します。
                                              1998年5月5日
                    安藤英治


出典
東亜大学経営学部教授    続生き甲斐のある生活をするとはどういうことか   クォリティ出版
   杉原哲彦          ー魯迅・トルストイ・民話・民芸・内なる声
                                      153頁〜154頁

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