2004/04/06
成蹊大学 奥野真敏
                   自然環境を護れる法律をつくろう

 今日、地球環境のみならず、日本の自然環境が急速に劣化の方向にあることは、皆様の良くご存知のところです。では、これらに歯止めをかけるにはどのような法律が必要でしょうか。
 日本における環境関連法は、環境基本法をはじめ理念法であったり、環境影響評価法のように手続法であって、実定法である建設関連法の前に無力であるのが現実です。つまり、道路を建設したり、ダムを作る方が、法的には優先されるのです。このため、多くの公共事業による環境破壊をなす統べもなく許す結果となっています。住民運動を果敢に実行し、行政事件訴訟をおこしても、最後の段階で住民を弁護する法律が十分でないため、結局は、土地収用法により、土地が収容され、事業のみが継続敢行されていくというのが通常のケースです。
 自然環境を護りたいという地域住民の意見や心情はほとんど報われることがないというのが、経済大国といわれるこの日本国の姿なのです。法律が、あまりにも行政よりに組み立てられているからです。この状況を打破しない限り、この国の自然環境は、止め処もなく改変、破壊されていくことでしょう。
 この状況を押し返そうというのが、いま国連欧州経済委員会を中心とした国々で実行に移されつつあるオーフス(デンマークの市名)条約です。環境問題を、もっとも効果的に解決あるいは未然に防ぐにはどのような施策が必要か、の指針を示したのが、1992年ブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議」すなわち「地球サミット」における「環境と開発に関するリオ宣言」の第10原則です。ここでは、「環境問題は、関心のあるすべての人々が参画することによって、もっとも適切に扱われる。公的機関が保有する環境情報を適切に入手し、意志決定過程に参画する機会をもたねばならない。これを促進するために、求償および救済をふくむ司法的および行政的な手続きへの参画の機会も与えられなければならない」という一文が盛り込まれています。これを受けて成立したのが、@情報へのアクセス権、A政策決定への参画権、B司法へのアクセス権を3本柱とするオーフス条約です。この条約の特徴は、あらゆる人々に開かれているというところにあります。個人、法人、団体、そして国籍、居所、市民権、等を一切問わない、まさに「人々」なのです。英文では、「Public」と総称されています。この条約を批准した国は、今日現在27ヶ国となっています。今後、批准を予定している国は、26ヶ国ありますが、16ヶ国が批准した時点(2001年10月1日)で条約は発効しています。これから2005年2月14日までに、各国は、自国法を条約に沿って改定していくことになっています。批准していない国も自国法の整備を進めています。この動きを各国は「環境民主主義」の具現化と考えています。
 一方、日本は既存の環境関連法、建設関連法が行政指導で作られていることもあり、この条約に加盟しようとする積極的動きはまだありません。オーフス・ネット・ジャパンは、日本でもこの条約の趣旨に沿って、法改正を政府に促そうとするものです。
 日本がこの条約の締約国になれば、条文に抵触する法は見直しを迫られます。そして、より広い範囲の人々が計画に参入することができ、結果として、公共事業は自然環境に強く配慮した計画にならざるを得ないであろうと目されています。日本においても、環境民主主義を念頭におけば、いずれオーフス条約を無視することは出来なくなる事態を迎えるでしょう。皆様におかれましても、将来世代のため自然環境を配慮した運動にご理解をくださるようお願い申し上げます。

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