安藤英治著

  『マックス・ウェーバー』を読む−ウェーバーに会った日本人・亀井貫一郎氏の証言
                                                政経13回 石川國男
                                              2004平成16年4/18

安藤先生のご業績の中で、マックス・ウェーバーを理解するうえで、一般読書人が手にしうる格好の書物の代表が『ウェーバー紀行』(1972/7昭和47年岩波書書店但し現在絶版)とそれに続く『マックス・ウェーバー』(1979/2昭和54年人類の知的遺産第62巻講談社、2003/3平成15年講談社学術文庫に所収)だと思われます。
先生は、1969昭和43年から1970年昭和44年にかけてのドイツ留学時(当時ミュンフェンのマックス・ウェーバー研究所客員教授)、生前のウェーバー(1864/4元治1年〜1920/6大正9年)と交流のあった人々(いわば生き証人)及びウェーバー縁の都市や大学など(生誕の戸籍調べから墓地探しまで)を、精力的に訪問されました。この貴重なフィールドワークが、『ウェーバー紀行』なのです。
この本は先生独特の動機探求の方法を縦横に駆使しての"素顔のウェーバー像、等身大のウェーバー像”構築に拍車をかけられる先駆けとして、位置付けられましょう。・・・暫し時が経過、1979/2昭和54年には、『マックス・ウェーバー』を上梓されました。
ここでのアプローチは、ウェーバーが生きた時代とその家庭史・生活史のなかで、その学問展開が如何なる意味を持っていたのか、更には現代を生きる我々の問題関心(意識)と、どのように共鳴するかを絶えず問いかけ、素顔の瑞々しい息吹きが伝わってきます。
中でも最終章(文庫版p421-444)の"マックス・ウェーバーと現代”の構成は、1−近代と現代の接点に立つウェーバー2-われわれにとってのウエーバーは何であるのか?2-1ウェーバーと日本2-2自由の精神となっており、ウェーバー像の核心が、一言一句神経の行きわたった明晰な表現力で、見事に提起されています。
さて、その最終章2-1ウェーバーと日本の明治啓蒙思想の項(p431)が、とくに私の関心を呼び起こしました。そこでは、日本人にも生前のウェーバーと実質的な交流のあった亀井貫一郎なる人物が存命されていることを、『中央公論』1974/5昭和49年5月号(この点は、正しくは6月号)の草柳大蔵・亀井貫一郎氏座談会で知るに及び、同年8月30日に御友人住谷一彦氏とともに亀井氏を訪ねられた模様が興味深く書かれているのです。
私はこの座談を直接読みたい衝動に駆られて、同書6月号を入手一読して、亀井氏との談話中に、まさしくウェーバーは当時の世界情勢を見据えつつ、ドイツの現状と行く末まで見抜いていたことが窺え、ウェーバーが強烈なリアリストの側面を持った稀有な知の巨人であったことを、再認識させられたのです。亀井氏も、ウェーバーの深い洞察力を受け入れるだけの感性と見識を持ち合わせておられたわけで、自らこれを機に弟子入りをしたと言っておられます。
この1919/5大正8年の、生き生きとしたウェーバーと亀井氏の知の交流は、時代を物語る出来事として大いなる意味がありましょう。それはナチス党が生まれる2年前、ウェーバーが死を迎える1年前のことでした。

ウェーバーとの対話中、次の強烈な発言は特に印象深いものです。ウェーバー曰く「いい資本主義は死んだ。今あるものは『unehelich Kapitalismus』 、しょせん妾腹だ」と・・・・1919大正8年、第一次世界大戦あとの処理会議いわゆるパリ、ヴェルサイユ講和会議における、学者ばっかりの小委員会の折での発言だったとのことです。
 日本−当時亀井貫一郎氏は、原敬内閣の後藤新平外務大臣特命在外公館勤務
      国際情勢分析担当
 ドイツ代表− マックス・ウェーバー
 イギリス代表− アーノルド・トインビー
亀井氏→ウェーバー
 カイザーがだめだったからこんなことになったけれども、こんど民主的な憲法(ワイマール憲法)も出来るし、政党もできるし、 これからドイツはいいな!
ウェーバー→亀井氏
 あんた、ほんとうにそうおもうのか?よき資本主義、よき民主主義は死んだと思う。カルヴィニストとかピューリタンとか、そういう宗教的倫理に支えられた資本主義にわれわれは夢をかけたのだ。ところがもうそれはない。
          −1974/6昭和49年6月号『中央公論』情報の交差点この人に聞く
          <第1回>亀井貫一郎 ホスト 評論家草柳大蔵より


                                                                                                                                                                 

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